恋愛&小説のブログ

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小さな握りこぶし52

気づけばお母さんに抱きついて


涙を流していた


お母さんはしばらくの間


わたしの背中を優しくさすり


何も言わず抱きしめてくれた


どのくらいの時間


そうしていたのだろう


少しずつ高ぶった気持ちが


落ち着いていくのがわかった


「だいじょうぶ


あなたなら、だいじょうぶ」


安心させるように


優しくお母さんが言う


「うん…」


声にならない声で


返事をする


「だいじょうぶだよ」


またお母さんが


優しく言う


出発の時間が近づいていた


もう洗面所から


出なければならなかった


意を決して


お母さんのあとに続いた


なんだか


私の居場所がどんどん


なくなっていくような気がした


もう、行くしかないのだ


「おお、大丈夫かい?」


お父さんが怪訝そうな顔で


わたしの顔を見ていた


あまりにも普段と変わらなすぎて


逆に涙が溢れてきた


止まらなかった


今までたくさん


心配かけて


迷惑かけて


どうしようもない娘なのに


こんなに愛されて


本当に幸せ者だ


新天地でやっていけるのか


不安も大きかった


何より笑顔でわたしを見送る


両親が居たことに感謝が耐えない


どうしようもない娘だったけど


今度こそ


自分が決めた道を


全う出来るように


見守っていてください


お父さんお母さん


わたしを愛してくれて


本当にありがとう


ふたりの愛情は


何にも変え難い


私の宝物です


これから先


家族を作って


私も同じだけの愛を


家族に注ぎます


ありがとうございました


これからも


ふたり仲良く


元気でいてください


しばしのお別れです


さようなら


小さな握りこぶし

小さな握りこぶし51

翌朝


いつものように食卓を囲む


お父さんも


お母さんも


いつも通り


わたしもいつも通りの


…筈だった


お父さんが彼に


朝刊の話題を振っていた


話し好きのお父さん


聞き役のお母さん


ああ


この団らんとも


しばらくお別れかぁ


…っ


そう思った瞬間


どっと涙が溢れ出た


みんなに気付かれないように


さっと洗面台へ急ぐ


涙が…


涙が止まらなかった


とめどなく流れ出て


何も考えられなかった


戻らないと


変に思われると思い


必死に涙をこらえた


落ち着いて


食卓へ向かう


やはりいつも通りの光景


その光景を見て


また涙があふれる


「う、うう…っ」


嗚咽を必死に


バスタオルで隠しながら


涙が枯れるのを待つ


もはや


食卓へ戻ることは


かなわなかった


(本当に、今日で最後なんだ…)


なんでか


お父さんのうるさい話も


お母さんの私の名前を呼ぶ声も


全てが"今日で終わり"だと思うと


ただひたすらに


涙だけが流れ出でた


こんなに悲しいとは


この日が来るまで


想像だにしなかった


ドイツへ行くと言った時も


都会へ行くと言って家を出た時も


涙は出なかったのに


気持ちが整理できないでいると


「どうしたの?」


お母さんが洗面所へ入ってきた


お母さんの顔を見るなり


押さえ込んでいた


色々なものが


嗚咽と一緒に


押し寄せた


小さな握りこぶし

小さな握りこぶし50

「やっぱ、長距離運転後の


動物園はキツい」


帰りの車内で彼が言う


「だから、言ったじゃん?


言う事聞かなかったの誰?


自業自得です」


彼はたまにへそ曲がりで


人の助言を無視して


自分を通すことがある


やっぱり言った通りだった、と


後で言うのが


たまに面倒臭い


家に着いたのは


17時まわった頃だった


仕事帰りの母が


私も一緒に作る予定だったメニューを


一人で黙々とこなしていた


動物園は予定外で


本当は母が帰るまでに


2品ほど出来ている予定だった


なんだかんだお互いに


動物園は楽しんだので


良しとしよう


お母さんの手料理も


しばらく食べ納めかと思うと


寂しかった


そうこうする内に


父が帰宅した


4人と愛犬1匹で食卓を囲む


いただきまーす!


今日はいつもより


料理がご馳走に感じた


小さな握りこぶし