恋愛&小説のブログ

閲覧して頂きありがとうございます!励みになります(ㅅ˘˘)♡*.+゜

小さな握りこぶし4(告白編)

会場のセッティング待ち


控え室はもちろん男女別


各々のフリータイムを終えた


ライバル達が反省会をしている


(どうしよう…緊張するねぇ)


(私たぶんダメだと思う…)


(もっと話しておけば良かったなぁ)


(大丈夫だよ、自信もって!)


それぞれの想いを胸に秘め


つかの間の休息


数人、仲良くなった子が


話しかけて来てくれた


「どうだった?最後のフリータイム」


一番気の合った子


お見合いが始まってからは


休憩時間ほとんど一緒にいた


「うん。


ちゃんと話せたよ


独占しちゃった」


結果がわかっている安心感と


カンニングしたような後ろめたさと


どっちもあった


「良いなぁ


雰囲気いい感じだったもんね


わたしはマジで自信ない。」


落ち込む彼女に


「最後までどうなるか分かんないし


もしかしたら、雰囲気


合わせてくれただけかも…」


そう言いながら私の中の不安は


まだ消えずに膨れ始める


彼を信じた私を信じろ


ここまで来て


不安に押しつぶされそうになる


昔から夢中になっている間は


何者にも負ける気がしなかったが


一度緊張の糸が解けると


大きな不安に襲われた


いつものポジティブは消え


安心出来る誰か


安心出来る何かが無いと


どんどん底なし沼に沈んでいく


今はわたしの直感と


彼の言葉しか頼るものがなく


彼を知った気でいた私は


その奢りを恥じた


彼の言葉を繰り返す


「俺は応えたい


俺は応えたい…」


言葉はなんて無力なんだろう


あの時の安心感は


彼がいて、彼が心から言ったことで


得られたものなのだ


今わたしが思い出して


同じ場面を想像しても


なんの安心感も得られなかった


言葉だけじゃなく


彼がいないと


彼が言ってくれないと


ダメなんだ


胸がギューッと締め付けられる


私の思考は


もはや彼無しには機能しなかった


ピーー


いよいよその時がきた


私は彼を目で追いながら


心臓が飛び出しそうだった


すると真剣な眼差しの彼が


こちらへ向かって歩いてきた


コツコツコツ


静寂の世界に


彼の革靴の音だけが


響いていた


コツコツコツ…


私の前に彼の姿があった


この瞬間を妄想しすぎて


夢でも見ているんだろうか


「今日はありがとうございました。」


現実に戻る…ほんとうだ


夢じゃない


夢じゃ…ないんだ


「…


俺の君に対する想いは


何にも負けません


よろしくお願いします」


「はい


よろしくお願いします」


なんだろうこの気持ち


言葉にできない想いが


目から溢れだしてくる


わたし


彼氏が出来たんだ


しかも好きな人に


告白してもらったんだ


嬉しいよ


口の中カラカラだし


もうこれ以上ないくらい


幸せ者だ


本当にほんとうだよね


「…手


繋いでいい?」


彼が恥ずかしそうに


きいてくる


「うん」


ふたりの手が


ぎこち無く重なり合った


歩いて会場の外に出る


朝降っていた雨が


本降りの雪に変わっていた


「頑張ったね」


二人きりになって声を掛けた


「緊張したぁ


俺ちゃんと言えてた?」


無垢な笑顔が覗いた


「うん、言えてたよ


すっごくカッコよかったし


…嬉しかった」


「あ、ああ」


「ありがとう


私を選んでくれて」


緊張がとけて


自然と笑顔になった


「こちらこそ、ありがとう


俺を選んでくれて」


胸の鼓動が速くなる


もう不安はどこかへ行ってしまった


彼が居てくれれば


他に何も望まない


握られたふたりの手は


お互いの熱を帯びて


雪の中でも温かかった


連絡先を交換して


会場に戻った


どのくらいの時間


外に居たのだろう


告白タイムは終了し


何組かカップルが出来ていた


私の友達も見事に


カップリングしており


笑顔で振る手からは


幸せが溢れだしていた


会場をあとにすると


帰りの時間が迫っていた


翌朝仕事のわたしは


サヨナラもろくに言えず


急いで駅に向かい


雪国を後にした


帰りの車内


メールが届く


彼からだ


「今日は本当にありがとう


帰り道乗り換えとか


大変だと思うけど


気をつけてね」


素朴だけど


思いやりがあって


良いなぁって


しみじみ思いながら


「こちらこそ、


ありがとうございました


うん、気をつけるね


これから


どうぞよろしくお願いします」


安心したせいか


ぐったりした私は


爆睡するのであった


今日はほんとうにマジで


疲れたよーー


でも、勇気出して良かった


ありがとう


あの時の自分


おめでとう


今の自分


これから一歩一歩


ふたりの間を埋めていこう


出し切ったふたりに


小さな握りこぶし

小さな握りこぶし4(後編)

「そっか…(笑)」


なんだか拍子抜けして


思わずタメ語になってしまった


私のさっきの決意を


かえせーー(笑)


と叫びたくなった


でも


ちょっと抜けているところが


また可愛くもある


そして


どんな理由であれ


私を選んでくれたのが


とても嬉しい


もうひとつ分かったのは


彼は絶対に嘘がつけない


純粋無垢であるが故に


嘘をついてもすぐ分かるだろう


という事だった


「それに俺、もっときみと話がしたい」


あれこれ頭で思案しているさ中


彼が突然口を開く


「うん!ありがとう」


それからは


他愛もない話で時間が過ぎていく


チャコという猫を飼っていること


料理好きだと言うこと


30kgほどのダイエットに成功したこと


減量の話は大抵の女子なら


食いつく


「えっ


どうやって痩せたんですか?」


「体幹と筋トレをしたんですよ


こんな感じで」


おもむろに立ち上がったかと思うと


照れ笑いしながら


トレーニングをして見せてくれた


ほんと、可愛い人だ


こういう真っ直ぐで飾らない人


好きだな


ふたりで元の席に戻る


私は意を決して言った


「私、あなたの


真っ直ぐなところが好きです。


もうあなたに


決めていますから」


言ってしまった


もうあとには引けない


でも、不思議と


焦りや恥しさはなかった


彼の実直さに影響されて


今ならなんでも打ち明けられる


打ち明けても後悔は…ない


「あ、ああ。


そう…ですか」


この彼の口癖は


少ない時間での


私の推測であるが


おそらく"照れ"であろう


言葉に詰まる仕草を


目にするにつれて


なんだか弄んでいるようで


申し訳ない気もしたが


もっと見たいと思うのだった


「今言って良いのか分からないけど…」


唐突に切り出され我に返る


「うん」


「………


俺、君に告白します」


んーとつまり


このあとの告白タイムで


私に告白するということを


フライングで宣言したんですね


…って…


「ええええーー!?


うそ、わたしで良いんですか!?」


と、口で言いつつも


内心は素直に嬉しくて


ホッとする自分がいる


力任せに押しすぎたかな


と、反省していただけに


喜びが2倍3倍になっていく


もちろん理由が知りたかった


「どうして、


私に決めてくれたんですか?」


彼は照れながらも真剣に


答える


「君と話してると


なんだか俺の事


前から知っててくれてたみたいで


嬉しかった。」


まあ、これは単に


私が彼の一挙手一投足を


観察しまくっていた事と


彼の仕草が読み取りやすかった


というのが大きいのだけど


「そうなんだ」


でも、それだけの理由で


好きへ転じるだろうか


それとも


あまりに必死すぎて


同情されたんだろうか


まあ、いろいろ


考えちゃうよね


だって、遊びじゃないんだもん


苦労して雪国まで来て


普段しないお化粧も頑張って


新しい服まで新調して


どんだけやる気だよって


思われるかもしれない


でも本気…なんだから


自分が気に入った相手でも


同情でカップリングなんて


ごめんだ


彼の言葉を待っていると


「それに…」


彼の周りの空気が強ばる


「うん」


何が彼の口から飛び出すのか


不安はんぶん


期待はんぶん


「…それに


こんなに可愛くて


一生懸命来てくれた君に


俺は応えたい」


可愛いワードは


言われ慣れてないと


ハートを持っていかれる


私の建前が見事に


崩れ落ちた


本気度合いが伝わった


この瞬間


彼になら騙されても


悔いはないなって


思ったのだ


「…ありがとうございます」


肩の荷がおりた


「えっと…」


彼がまた口を開く


警戒せずに耳を傾けると


「それで、告白の時って


…なんて言ったら


良いのかな?」


「知りませんよ?


そう言うのは


何を言うかじゃなくて


何を伝えたいか、だと


私は思います」


彼の言ったことに対して


かっこ悪いとか


マジで無いわとは


思わなかった


ここのシステムは


男性告白制だったので


結果がわかっている私は


彼の告白を待つだけでよかった


まだ悩んでいる彼に私は


「私、あなたのこと


待ってますから。


安心して来てください」


ピーー


見計らったかのように


フリータイム終了の


笛が鳴った


いよいよ告白タイムに突入する


彼に向かって


小さな握りこぶし

小さな握りこぶし4(前編)

ふたりの出会いは


お見合いだった


彼はもともと


参加しないつもりだったらしい


一方私はと言うと


お見合いは今までに…


2〜3回くらいかな


昔のトラウマで


男性には


どうも積極的になれない


とは言っても


生涯一人は嫌だった


意を決して参加した


街中の婚活パーティ


カップリングしたのは


1回きり


数回食事や映画を観て


いろんな話をした


いつも笑顔で場を盛り上げようとする


いい人だった


でも、そのために


他人を槍玉に挙げる人だった


そして何より


友達や上司の話題が多い人だった


価値観が合ないとわかって


お付き合いはお断りした


辛くもその日は


相手が私に告白しようと


した日でもあった


そんな事もあり


乗り気ではなかったけれど


「ダメ元で行ってみたら?」


母の一言が頭の片隅にあった


何がきっかけだったか


あまり覚えていないけれど


私はいま、お見合い会場にいる


一通り面通しをしたあとの


フリータイム


いろいろな人がいる


大きな瞳で相手を魅了する


メガネザル


綺麗なブランドの似合う


クジャク


ふわふわ可愛らしい


ウサギ


おおらかで優しい目の


ヘラジカ


少し緊張がとけて


無心にサンドイッチを頬張る


ゾウ


「私もご一緒していいですか?」


「あ、ああ。どうぞ」


サンドイッチに手を伸ばす


彼の瞳はまだ強ばっている


少しずつ歩み寄って話をする


時折見せる笑顔が


強面に不釣り合いの可愛さで


胸がキュンとなる


私だけに向けられた笑顔だと思うと


嬉しくて緊張なんか吹き飛ぶ


自然体の彼ともっと話がしたい


休憩時間を挟んでから


2回目のフリータイム


私は足早に彼のもとへ急ぐ


ふたりきりで話したいこと


まだたくさんある


悔いを残すぐらいなら


出来ることやり切った方が


スッキリすると思うから


話しているあいだに


分かったことは


お互いモノづくりが好きだということ


結婚したら子供はふたり欲しいこと


子供には旅をさせるということ


私は編みぐるみやイラストを描き


彼はレザークラフトをする


職人並みの技で鞄や財布など


なんでも器用に作ってしまう


子供は一姫二太郎が良い、というのは


私の希望だけど


彼もそれに賛成だった


教育方針は過保護ではなく


放置型


無関心という訳では無い


「イエス、ノーという前に


なんでも一回経験させるのが


一番だと思う」


と、私が言うと


「俺もそう思う」


彼が答える


これだけ確認できれば


上々だ


よく頑張ったわたし


そうして、少し安心した私は


「お話ありがとうございました。


他にお話したい人がいれば


遠慮せず行ってください。


私はもう満足なので大丈夫です。」


結構な時間引き止めてしまった


彼への申し訳なさがあった


意中の人がいるかもしれない


そんな事を考える余裕が


まったく無かった私は


独占したい気持ちを抑えて


彼を快く送り出すことにした


これで敗れても


やる事はやったし


彼の私に対する印象を


悪くしたくなかった


最後の記憶になるかもしれないから


「あ、そうですね」


想定してなかったけど


どうするかな?


みたいな反応だった


しきりに周りを見渡すも


彼の目は何かを捉えようとしながら


空回りしていた


しばらく沈黙が続いて


探し終えたらしい彼が


「うーん


やっぱりもう良いかな」


「え?もういいって


どういう事ですか?」


なんだか可笑しかった


「実は話したい人が居たんだけど


見つからないから


もう良いかなって」


小さな握りこぶし