小さな握りこぶし4(前編)
ふたりの出会いは
お見合いだった
彼はもともと
参加しないつもりだったらしい
一方私はと言うと
お見合いは今までに…
2〜3回くらいかな
昔のトラウマで
男性には
どうも積極的になれない
とは言っても
生涯一人は嫌だった
意を決して参加した
街中の婚活パーティ
カップリングしたのは
1回きり
数回食事や映画を観て
いろんな話をした
いつも笑顔で場を盛り上げようとする
いい人だった
でも、そのために
他人を槍玉に挙げる人だった
そして何より
友達や上司の話題が多い人だった
価値観が合ないとわかって
お付き合いはお断りした
辛くもその日は
相手が私に告白しようと
した日でもあった
そんな事もあり
乗り気ではなかったけれど
「ダメ元で行ってみたら?」
母の一言が頭の片隅にあった
何がきっかけだったか
あまり覚えていないけれど
私はいま、お見合い会場にいる
一通り面通しをしたあとの
フリータイム
いろいろな人がいる
大きな瞳で相手を魅了する
メガネザル
綺麗なブランドの似合う
クジャク
ふわふわ可愛らしい
ウサギ
おおらかで優しい目の
ヘラジカ
少し緊張がとけて
無心にサンドイッチを頬張る
ゾウ
「私もご一緒していいですか?」
「あ、ああ。どうぞ」
サンドイッチに手を伸ばす
彼の瞳はまだ強ばっている
少しずつ歩み寄って話をする
時折見せる笑顔が
強面に不釣り合いの可愛さで
胸がキュンとなる
私だけに向けられた笑顔だと思うと
嬉しくて緊張なんか吹き飛ぶ
自然体の彼ともっと話がしたい
休憩時間を挟んでから
2回目のフリータイム
私は足早に彼のもとへ急ぐ
ふたりきりで話したいこと
まだたくさんある
悔いを残すぐらいなら
出来ることやり切った方が
スッキリすると思うから
話しているあいだに
分かったことは
お互いモノづくりが好きだということ
結婚したら子供はふたり欲しいこと
子供には旅をさせるということ
私は編みぐるみやイラストを描き
彼はレザークラフトをする
職人並みの技で鞄や財布など
なんでも器用に作ってしまう
子供は一姫二太郎が良い、というのは
私の希望だけど
彼もそれに賛成だった
教育方針は過保護ではなく
放置型
無関心という訳では無い
「イエス、ノーという前に
なんでも一回経験させるのが
一番だと思う」
と、私が言うと
「俺もそう思う」
彼が答える
これだけ確認できれば
上々だ
よく頑張ったわたし
そうして、少し安心した私は
「お話ありがとうございました。
他にお話したい人がいれば
遠慮せず行ってください。
私はもう満足なので大丈夫です。」
結構な時間引き止めてしまった
彼への申し訳なさがあった
意中の人がいるかもしれない
そんな事を考える余裕が
まったく無かった私は
独占したい気持ちを抑えて
彼を快く送り出すことにした
これで敗れても
やる事はやったし
彼の私に対する印象を
悪くしたくなかった
最後の記憶になるかもしれないから
「あ、そうですね」
想定してなかったけど
どうするかな?
みたいな反応だった
しきりに周りを見渡すも
彼の目は何かを捉えようとしながら
空回りしていた
しばらく沈黙が続いて
探し終えたらしい彼が
「うーん
やっぱりもう良いかな」
「え?もういいって
どういう事ですか?」
なんだか可笑しかった
「実は話したい人が居たんだけど
見つからないから
もう良いかなって」
小さな握りこぶし