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小さな握りこぶし5-4

さーてと


すべき事をやり切った


わたしは


居間に降りていき


冷蔵庫から冷えた牛乳を


グラスに注いだ


「彼、なんだって?」


台所の片付けをしていた


母がおもむろに聞いてきた


「え?うん


三連休空いてるか聞かれたけど


仕事繁忙期だし断った」


母は目を丸くした


「そう」


なんか変な感じだったけど


あまり気にしなかった


それを聞いていたらしい父が


口を開く


「半日くらい


休み取れないの?」


わたしは遊ぶなら


仕事のある日は


避けたい人だった


だって仕事のこと考えて


ゆっくり出来ないのは嫌だし


「うーん


だってその内


一緒に住むことになるんだし」


返事に悩んでいると


父がいきなり


ブチ切れた


「お前は冷血動物だな!


そんなに仕事が大事なら


付き合いも結婚も


辞めちまえ!」


侮蔑の目を向けて


怒鳴ったかと思うと


どこかに行ってしまった


はぁ?


何キレてるんだか


意味わからんけど


「何でいきなりキレるの


ワケわからんし」


普段は愛情深い人だが


一時の感情で怒鳴る事が


ままあった


短気はまだ我慢できるとしても


父の言葉の汚さには


正直吐き気がする


自分が好きな人が


汚い言葉を使うことに


私は耐えられない


胸に槍を突き立てられたような


痛みと悪寒が走る


悲しくて泣けてくる


ことばは


強い影響力を持つものだと


いつも思うが故に


好きな人には


相手を傷つける言葉は使って欲しくなかった


母が口を開く


「たぶん


お父さんが言いたかったのは


仕事が忙しくても


時間を作って


ふたりの時間を持つべきだって


事だと思うよ」


だってさ


そのうち一緒に住むのに


そう


3ヶ月後には


彼と同居する事になっている


だから


今は頼ってくれる職場や


子供たちに報いたいと


思うのは


そんなに身勝手なことだろうか


「だって遊ぶなら


1日遊びたいじゃん


仕事だって


おいそれと休めないし」


何が悪いのかわからない


「そうだね


それならそれで


もっと他に言い方なかったか


考えてみて」


母が言う


え、言い方?


なにか悪い言い方をしたのだろうか


「さっきのあなたの言い方だと


理由はどうあれ


相手よりも仕事優先で


ここには来て欲しくないように


感じちゃうかもしれないね」


仕事優先なのは


確かだけど


来て欲しくないわけがない


ただ


数ヵ月後には


ひとつ屋根の下に暮らすのに


今遠い距離を


来る必要があるのか


疑問だった


「うん


確かにそうかもしれない


でも、やっぱり仕事の日は


遊びたくない」


せっかく来てくれるのに


彼をほっぽって


仕事にいけと?


その方がよっぽど酷だ


「例えば彼に選択肢を


あげてみるのはどう?


仕事が忙しいけど


もしあなたが良ければ


仕事の合間なら時間取れるから


逢いに来てって」


なるほど、そっか


「そうしたら


彼にも選択の余地があるし


あなたの気持ちも


変な伝わり方は


しないと思うよ」


さすが人生の先輩


そうだよね


何やってんだろ私


逢いに来たいって言ってるのに


仕事だからとか


本当に最低だ


逆の立場なら


今頃マジで振られたって


本泣きしてるところだ


「そう言ってくれたら


分かる」


今になって父がキレた理由が


わかった


キレた時の父の発言は


母の通訳なしには理解できない


30年越しの付き合いは


伊達じゃない


「お父さんに謝ってくる」


父は湯船に浸かっていた


こういう時は切り出しづらい


でも覚悟を決める


「お父さん


さっきは…ごめんなさい


わたし何にも考えてなかった


お母さんに言われて


やっとわかった


でも、あの言い方は


傷ついたよ」


ドア越しに父が言う


「普通に考えたら


わかることでしょう」


普通って何?


「わかんないよ!


今まで付き合ったことないし


友達の結婚式も仕事休んでまで


出たことないし


こんな経験ないんだよ!」


今まで父に対して


これほど強気に


反論したことは無かった


小さい頃から


恐ろしい存在で


家の中しか逃げ場がないわたしは


主張するより受け入れた


今になって反論できたのは


たぶん彼の所という


逃げ場所がひとつ増えたから


かもしれない


「それにあんな言い方されて


もしお母さんいなかったら


一生わかんなかったよ!」


謝りに来たのに


今まで溜まっていたものが


あり過ぎて止まらない


少しあって父が口を開く


「そうか


父さんの言い方が悪かった


ごめん」


いつも自分の非を認めない父が


謝った


「でもな


これから先


長く一緒にいるかもしれない相手は


大切に大切に


しないといけないんだよ」


話す父は諭すようだった


「父さんもこんな性格だから


お母さんとは沢山ぶつかったし


喧嘩もした」


うん


「だけどそれでも


一緒に連れ添って


頑張ってこれたのは


お互いを大切にしてきたからなんだよ」


うん


「夫婦なんて脆いもので


ちょっとの事で壊れちまう


そんでもって


一度壊れたら


もう直らないことが


ほとんどなんだよ」


…うん


「だからこそ


お互いをよく知るために使う時間は


何ものにも替えられないんだ


時間の長さは関係ないんだ」


目頭が熱くなる


涙がとめどなく溢れる


「彼を大切にすれば


彼もあなたを大切にする


ふたりの絆を


仕事なんぞで絶やしては


いけないんだよ」


すっごく私のこと


考えてくれてたんだ…


「遊びじゃなくて


何か彼に惹かれるものが


あったんだろう?」


「…うん」


なんとか声を絞り出す


「だったら何を差し置いても


彼を優先して大事にしなさい


そうすれば彼も


あなたに応えてくれるから


それだけわかって欲しかった」


うう…


わたし最低だ


自分のことばっか考えて


彼のこと何も考えてなかった


「ありがとう、お父さん


彼に電話…してくる!」


急いで階段を掛け登って


携帯を手に取った


小さな握りこぶし

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