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小さな握りこぶし14-2(回想編)

「冷たくない?」


彼が心配そうに声を掛ける


「ううん、気持ち良い」


なんだか涙が出てきた


自然ってすごいな


この大自然の中で


雪の冷たさすら心地よく感じる


生命の営みに包まれているよう


「そっか」


「うん」


もはや言葉はいらなかった


どのくらいの時間が


流れたんだろう


彼は何も言わず


ただ傍に居てくれた


しばらくするとお母さん


「お茶入れたから上がっておいで」


自分のお母さんみたい


「はーい」


今夜は行きつけの飲み屋で


報告会があるそうな


なんの報告かと言うと…


彼女できました報告だって


彼の30年来の親友たちが


時間を作って集まってくれるらしい


名目は彼単身の報告会だけど


その席でのわたしの役割は


サプライズゲスト


「そういえば温泉の優待券があったな


ちょっと待ってて」


お父さんがおもむろに腰を上げて


引き出しを探し始める


「あったあった、これだ」


いろいろな温泉の優待券が


3枚出てきた


「これ使って温泉行っといで」


なんと優しい!


「ありがとう、お父さん!」


彼の実家を後にして


さっそくアパートに戻り


温泉へ向かった


雪国の温泉は初めて


しかも雪見温泉である


すっごい贅沢


「じゃあ18時にここで」


「うん、後でね!」


時間と場所を決めて


彼と別れる


年末だけあって


家族連れや観光客が多い


露天風呂から見る夜の街並み


街灯や街のネオンが


宝石のようにキラキラしていた


すぐ下を川が流れていた


川のせせらぎの音


湯口から温泉が注ぐ音


雪がしんしんと落ちる音


目を閉じているのに


全てが淡い色を持つ


それぞれが自分の色を持ち


主張しているのに


1つにまとまっている


やっぱり自然はすごい


露天風呂も久々で


心身ともに癒された


着替え終わって暖簾をくぐると


もう彼がいた


「お待たせ、待った?」


時間は5分ほどすぎていた


「ううん


だいじょうぶ


じゃあ、行こうか」


「うん」


たぶん、10分くらいは待ったであろう


それを口にしないところが


惚れ所でもあった


そのまま車を走らせ


呑み処へ向かった


少し緊張しながらも


彼の親友たちに紹介されるというのが


とても嬉しかった


「こんばんは」


引き戸を開けて彼が入る


「お、いらっしゃい


来たねぇ」


どうやら彼は


この店の常連らしかった


客席はカウンターを合わせて


20席ほど


こじんまりしたお店である


「こちらへどうぞ


あ、こちらが"例の"?」


"例の"?彼女です


「あ、はい


今日、新幹線で来てくれました」


彼が照れながら説明する


「あら、そう!


はるばる遠いところまで


よくお越しくださいました」


笑顔の素敵な女将さんだなぁ


「は、初めまして


今日はお世話になります」


慌てて言葉を返す


「ゆっくりしていってね」


「ありがとうございます!」


とてもアットホームな感じだ


一番乗りだった様で


飲み物だけ頂くことにした


「ここ、昔からお世話になってるお店


だから、大体みんな知り合い」


「そうなんだ」


彼を育てた場所のひとつか


人の温かさに育てられたんだ


だから人としても


惹かれたんだろうな


ちょっと感慨深げ


そうこうしていると


続々メンバーが集まり出す


「こんばんは、初めまして」


「え、ちょっと、まさかとは思うけど


そういう事?(笑)」


「そういう事(笑)」


彼がまた照れくさそうに


笑った


彼はめったに笑顔を見せない


笑った方が素敵なのに…


「ちなみに、


コイツの何処が気に入ったの?」


え、唐突ですね(笑)


わたしが惹かれたのは…


「優しいところと


絶対わたしに嘘をつかなそうな所かな」


どうして嘘をつかないと分かるか


言葉で説明するのは


少し難しい


あえて言うなら…勘だ


話していて


一緒の時を過ごして


彼は私を裏切らないと


私の勘が言っていた


だから彼なら裏切られても


後悔はしないし


彼を責めもしないと決めた


初めての人だった


「へぇ、すごいな」


「コイツはね


ほんとうに良い奴


絶対に君を大事にしてくれるよ


俺たち幼なじみが保証する」


俺たち幼なじみが保証する、か


周りにそう言われるのって


すごいよなぁ


「はい」


隣で彼が照れている


「お前のそういう照れ顔


ムカつくわ(笑)」


「あはは(笑)」


幼なじみのみなさんも


凄くいい人ばかりだ


団欒がしばらく続いて


みんな家族の元へ帰る時間になった


「あ、これ


つまらない物ですが


今日はありがとうございました


今後とも、どうぞよろしくお願いします」


みんなにクッキーの包み渡す


「ありがとうございます


わぁ、女子力高いな」


本当につまらないもので


申し訳なくなった


「女将さんも


美味しいお料理


ありがとうございました


これからもよろしくお願いします」


「あらまぁ、気にしなくていいのに


ありがとうございます」


お店をあとにして


アパートに向かった


小さな握りこぶし

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